日溜りを避けるように、部屋の隅に彼は座っていた。
課題も委員会もない昼下がりはぼんやりするのが一番だと思っている、そんな彼の膝の上には黒髪を無造作に散らした頭が乗っている。当然とばかり、ごく自然に寄ってきた彼女を咎めるでもなく、ただ好きなようにさせていた。
畳に投げ出した彼女の足先に、少し触れる程度の熱。太陽は容赦ないが、負けじと上質な絹に似た風が吹き込む五月。


「今日は暑いね」


小さな声の不意打ちに彼は対応が利かず「あぁ、うん」などと寝惚けた声を出した。


「去年の今頃はどうだったっけ?」


眠いのか少し掠れた声。
そういえば随分と長い間一緒にいる。彼は去年を思い出そうとするが記憶はいずれも朧気で今ひとつ自信が持てない。答えあぐねていると、追い討ち。


「ずっと一緒にいられるかな」
「…………」
「ねぇ」


丸い目が見上げる。やましいことなど無いのに、反射的に逸らした。
間の悪い空間を、風が突き抜けていく。彼は冷や汗かもわからない、得体の知れぬ尚早を自身の背に感じていた。
早口で言う。


「今度の休みは町に行こう」


答えははぐらかされたが、それが彼なりの優しさだと彼女は知っていた。
まどろむ瞼を閉ざすように大きな手を顔の上に添えられる。

伊作はずるいよ。

彼女はおやすみの代わりにそう呟くと、後は寝息だけ溢した。


「ごめんね」


散った髪に指を絡めて彼はばつが悪そうに微笑む。
穏やかな陽射しと二人だけ、そこにいた。