陽気で一杯な、眠くなる室内。ふらふらした足取りで目的地へ向かう。


「これで最後?」


汗を拭いながら尋ねると、机に座っている長次が今運ばれた書物を眺めながら頷いた。


「長いこと委員やってるけど、この作業が一番面倒だわ」
「…仕事だから」
「仕方ないってわかってるけどさー」


今日は書物の点検日だ。新しく入ったものと内容が被っていたり、なんかもういらないだろ、っていう書物を見つけ出して処分する。
がさがさと作業が始まった。いる、いる、いらない。どんどん分別されていく。
しばらく無言だったが、私はかなりお喋り好きなのですぐに口が開いた。


「昨日拾った猫はどうしたの?」


対する長次はこれでもかと言うほど喋らない。返事をする代わりに悲しそうな顔をしてみせた。表情の変化さえはっきり言って読み取り辛い。でも、さすがに六年間も隣にいたからおおよそのことは理解できた。


「まだ引き取り手が見つからないの?」
「…………」


頷く。なんだかいたたまれない気分になった。前々から考えてた提案をしてみる。


「…うちで飼えばいいんじゃない?」
「?」
「図書委員会で飼えば、いいんじゃない」


どうせ日替わり当番でしょっちゅう誰かしら居るでしょ。
長次の口が薄く開いてるけど何を言うわけでもない。再度尋ねる前に頷いた。


「じゃあ決まりね!」


ほんの少しのわかり辛い笑顔。


「…ってことになったけど、みんなはそれでも良い?」


後ろに呼び掛けると方々から返事が飛んできた。棚には他の委員が潜んでいる。理由は長次が怖いからだって。
何でだろうなぁ、全然そんなことないのにね。一匹の猫に困ってる優しい人なのにね。


「じゃあ学園長のとこに行こう」


急き立つ思いで長次を引っ張った。ミャア、と鳴き声がする。問題の猫はずっと長次の膝に乗っていたようだ。
私達は見事に職場放棄をして、廊下を猫と共に走り抜けた。