たった今、この瞬間。
これは恋だと発覚した。

なんてことはない只の挨拶が、「おかえりなさい」って言われるのが、特別心に響くのは君だから。

そう判断する。機械的なこの思考。



寒風吹きすさぶ門前に立ち、挨拶した少女はぎこちなく笑った。
返事の「ただいま」が上手く出てこなくて、「うん」とくぐもる自分の声。

彼女の頬は風に晒されて赤らんでいる。


「お使いは大変だった?」
「…そう、でもない」
「ふぅん」


沈黙。びゅうびゅうと容赦ない寒風。
身も凍らすそれは自分と彼女を突き抜けて、吹く。

肩を竦めて縮めた体からそっと伸びて自分の両手を包む柔らかな両手。
じわ、と浸透する熱に大分自身が冷えていたことを知った。

彼女がなにか言った。
ぼんやりしていて聞き取れなかった。


「なに?」
「綾部くん、手、冷たい」


あぁ、うん…

まただ。何も言えやしない。
会話が成り立たない、これは悲劇。

彼女も手持ち無沙汰でじっと立ったまま。
不意に右手で赤い頬を撫でれば、驚いたように目が丸くなる。


「冷たい?」
「う、ん…」


もっと、


「え?」
「もっと欲しい」


その熱。

襲う寒風。瞬間的に抱きしめる。途端に共有される、ああ、人というこの熱がたまらなく愛おしい。

機械的思考、否、これは本能。


「あたたかいな」


そう呟いて摺り寄せられる柔らかい頬。
一段と熱を持って触れ合うそこから溶けてしまいそうだ。

どうして外にいたの、なんて邪推はよそう。
胸中は幸せで満ちている。