よく気が付くほうだと思う。


「あ、藤内おはよー」
「おはよ、う…?何それ誰にやられたの」
「はい?」
「前髪、切ったろ」


おうびっくりだね!
同室の奴ですら気付かなかったのに。ほんの少しばかりなのに。
手で押さえる前に藤内の指が髪を摘んで引っ張った。


「触らないでよ」
「自分でやった?」
「うんまぁうざかったから…」
「変なの」


気が付くからかどうかは知らないけど、ちょっと口がきつい。
目を細めて不快感を露わにしてみせると慌てて私の前髪を離した。
気まずい間を取り繕うように

「あー!そうだ!」

彼は大袈裟な声を出した。


「なによ」
「この間俺の部屋に手裏剣忘れてたぞ」
「えー、うそ!」
「本当。だから後で取りに来て」


確か実技後に遊びに行ったのが最後だった。
もれなく泥まみれ・傷だらけオンパレードで放置されたままのマイ手裏剣を思い描き憂鬱になる。
そんな私を見て藤内はにっこり笑った。


「汚かったからちゃんと磨いてあるよ」


神か。


「…………」
「……どうしたの」


いや、神というより


「藤内はお母さんみたいね」
「…普通彼氏に母性は求めない」
「でもうちのお母さんよりお母さんらしいよ」


今度からお母さんって呼んでいい?

絶句の後、しばらくして「お前って馬鹿なのか?」と言われた。
ひどいや、お母さん。