もううんざりだ。
毎度毎度背後に立たれれば嫌でも察知能力は発達してしまうというのに。
相手に気取られるぐらいじゃ全く忍んでるとは言えない、その忍び足。馬鹿馬鹿しい。


「なんか用、食満」
「用が無いと駄目かよ」
「うん駄目。無意味な行動に力使うぐらいなら寝てるほうがマシだと思うよ」
「…………」


私は馬鹿じゃない。
背後の彼とは違うのだ。


「…隣、いいか」
「駄目」

そっけない返事をしてみても気配は消えなかった。
立ち尽くして何を考えているのだろう。無駄なのに。そしてそこにいつまでいようと意味が無い。そんなのは大したことではない、どうだっていい、無駄だ。

重要なのはなぜこうまでして私の関心を惹きたがるのか、惹いたところで何ができるというのか、何をするつもりなのか。
それだけだ。

見る宛てもなく夕暮ればかりの空を眺める私の行動は無意味ではない。


「食満って本当に馬鹿」
「もう一回言ってみろ」
「言いたくない」


立ち上がる。


「おい、待て」
「待たない」
「名前」
「そんな名前じゃない」


見ない聞かないあんたなんか知らない。

一息で捲くし立てると、暫くして鼻をすする音が聞こえた。
近頃は風邪が流行っている。だから決してそんな事はない筈なのに、つい泣いてる彼の姿を思い描いて性格の悪い私は笑ってしまったのだった。


「名前」


聞こえない。
馬鹿馬鹿しくもこんなに興味が湧く対象は彼意外にいないのに、どうしてそこに気がつかないのか。
やはり馬鹿なのだ、いつまで経ってもさ。
腹が減ったからという理由で食堂へ誘う私の行動にはきちんと意味がある。