夕刻、町へ買い出しに行った帰りにきり丸を見つける。

彼はアルバイト帰りの様だ。銭紐を不用心に振り回して軽い足取り。


「きりちゃん」
「あ、名前さん」


呼んだら歩みを止めて振り返った。
走り寄って隣に並ぶと彼は当然の様に手を握る。私もまた当然の様に握り返す。


「買い出し?それ飛び出てんのごぼう?」
「今晩はとん汁だっておばちゃんがね」
「本当に!?俺おばちゃん達のとん汁大好きだよ」


あっ別にとん汁だけじゃないけどー

ぶんぶん振り回す銭紐、繋がれた片手もぶんぶん。


「きりちゃんはまたバイト?」
「今日はすげー頑張ったんだ!見てこれ!」
「そうだねぇ」


よく頑張ったね

にこにこ笑うと、照れたのかそっぽを向いた。
空を見上げると夕陽が眩しい。


「俺、もっともっと頑張るから」
「うん」
「応援してくれる?」
「うん、するよ」
「じゃあさ、もっともっともっと頑張ったら、」
「?」
「俺と結婚してよ」


つりがちな大きな眼は私を見ている。
ぱちぱち瞬いてみせると、笑って彼は手をぎゅっと握った。


「けっ!こん!」
「えー」
「えーって…」
「ふふ、頑張ってもう少し大きくなったらね」


唇を尖らす仕草も可愛いけれど。
ちょっと未来が楽しみになった。

夕陽に伸びる影が揃うまでどれぐらいかなぁ。