「…………」
連日、この物体に首を傾げるのはもう飽きた。
しゃがんで物体を手に取る。灰色でざりざりしている。一見おにぎりの様でものすごく固い。いや、おにぎりだったのだ。それに何故か鉄粉がまぶされ、何故か私の自室前に供えられている。
全くもって不可解だ。
「なんなんだろう…」
こう毎日毎日供えられていると心配になる。なんのメッセージだ。
暗にお前死ねって言われてるのだろうか。
特別誰かに恨まれるような生活はしてない…筈だ。
どうしよう?
困ったときの相談は誰にするべきか。考えつつも、なんとなく足は医務室の方へ向かっていた。
「善法寺先輩」
「やぁ、こんにちは」
訪ねるとにこにこした不運委員長さんが一人座っていた。他に誰もいない。チャンスだ。
「相談があるんですけど」と言った私の深刻さを感じ取ったのか、先輩の喉が鳴る。
「僕でよければ話だけでも」
「じゃあこれ見てください」
「?」
風呂敷を下ろす。開ける。今まで供えられていた数多の物体がひしめき合う光景は中々のものだ。
案の定先輩は絶句した。
「こ、これは…」
「なにかわかりますか」
「鉄粉握り飯だね!」
「見りゃわかります、そうじゃなくて…なんかこう心当たりとか…」
先輩は、あーとかうーとか煮え切らない返事をして目を泳がせる。
わかる訳ないか。
相談してて虚しくなってきた。それにしても不気味すぎるし、誰かに言わずにはいられなかった。
然して害はないけど迷惑というか…あれ、それもう害じゃね?
悶々としていると、衝撃的な言葉が先輩の口から飛び出した。
「これ、わかるよ」
「え」
「心当たりというよりは当事者というか…」
「え?」
「なんなら呼ぼうか?」
「え?」
「文次郎ー」
「なんだよ」
「えっ、ぎゃぁぁあ」
突如天井から人が垂れ下がってきて、反射的に私は絶叫する。
「ななななん、なん…」
「あ?」
その人物が潮江先輩と認識するまで十秒要した。なんでだ。なんでてんじょうにいたんですか。
目が合うと勢い良く逸らされる。天井からぶら下がったままだ。苦しくないのだろうか。
沈黙が流れる。
「…え、善法寺先輩、どういうことですか」
「だから文次郎が犯人だよ、これ」
指差した先には鉄粉握り飯。
「人聞きの悪い言い方するんじゃねぇ」
「あのー…潮江先輩…」
「んだよ」
ギン!と睨まれる。怖いよう隈が濃いよう。
意識が遠のきそうになりながらも精一杯「なんで私に鉄粉握り飯をよこすのですか」と疑問の旨を尋ねると、
「やるよ」
「…………」
徐々に先輩の顔が赤くなっていく。
「…やるっつってんだから貰っとけよ!」
いたたまれなくなったのか、それだけ言うと地上へようやく降り立ち、素早く外へ出て行ってしまった。
残された私と物体と善法寺先輩の間に得体の知れない空気が広がる。
やがて先輩が口を開いた。
「貰っても使い道ないよね」
頷くしかできなかった。