「名前ちゃん、まだ起きてるの?」
「………特訓です、六年は忙しいんですから」
庭で手裏剣を投げまくっていたら後ろから呑気な声がした。それが誰かはわかっているので振り向きもせずに答えた。
彼ではなくて、空を見る。
月明かりが煌めいてとても明るい。星も瞬く。こんな夜は忍ぶにはむかないとみんな口を揃えるけれど、私には堪らなく気に入る空だった。
「あんまり頑張りすぎないでね」
「…まだいたんですか」
「風邪ひいたりとか、」
「別に小松田さんが気に病むことじゃないでしょう」
「だって…」
苛立って彼のほうに向き直る。目が合えば慌てて逸らしてもじもじする。赤面、口ごもり、視線は宙を泳いだり地を滑ったりせわしない。
(これで隠してるつもりかしら?)
……バレバレ。
「はっきりしないわね」
「え」
「私は貴方みたいに鈍くさい人、嫌いよ」
きっぱり伝える。
只でさえ大きな目が精一杯見開いて零れ落ちそうだった。
言い過ぎたかもしれない。謝ろう、そう思った矢先に彼は言った。
「それでもね、僕は」
あ、その顔はけっこういい。
「名前ちゃんが大好きだよ!」
夜の冷たさ、月灯り、笑顔、…笑顔。
空に相成ってキラキラしたその空間。
なんで私がドキドキしなきゃいけないの、ばか!