昔から先輩のことばかり見ていた。


「雷蔵くん」


あぁ、その笑顔を何よりも愛してる。





「雷蔵くん」


秋風が身に染みる最近。
冷たい廊下の壁際をぺたぺた歩いていたら後ろから呼ばれた。

先輩だ、と思ったのはほんの一瞬で。


「タチの悪い変装やめなよ、三郎…」
「あらぁ、ばれちゃった?」
「正直きしょい」
「きしょ…!?」


まじまじと見つめる。大方からかい目的の変装だろうけど、それにしては手を抜きすぎてる気がした。っていうか元は三郎だしね。背はでかいし仕草は雑だし、どうしようもない。

見つめて大きなため息を吐くと、べりべり先輩(偽)の下から半眼の三郎(とはいえ僕の顔だけど)が登場した。


「なに、その顔」
「なんか「不満足ー」みたいなツラしてるから」
「だって先輩じゃなかったんだもん三郎なんだもん、萎えるよ」
「……お前は恋に恋しとけ」
「なにそれ」


疑問を返せば、はぁーやれやれと呆れたジェスチャーをするものだから少し腹が立って、なぜだか偶然手に持っていた巻物でその軽そうな頭を殴ってみた。

ばごん!

力が入りすぎたのか、吹っ飛んだ頭は勢い良く壁へ衝突した。やりすぎたかな?別にいいか、三郎だし。

それにしてもこの巻物…


「あ」


図書室へ返そうとしていたことを思い出す。しかも今日は先輩が当番じゃないか!


「三郎のせいでとんだ足止めをくっちゃったよ、もう今度その変装やったら許さないからね!」


一息で捲くし立てて三郎の屍を踏み越えて図書室へ向かった。





今日も先輩は素敵だったなぁ、沢山お話が出来たから(中在家先輩が不在だと多少の会話は免除だ)冷えた廊下も気にならないぐらい上機嫌で歩いていると、後ろから名前を呼ばれた。
先輩でも先輩(偽)でもなく、兵助だと認識した瞬間に体は返事どころか振り返ろうともしない。正直だ。
やがて、どすどすどす、と荒い足音が近づいてきて、仕舞いには肩を掴まれた。目線だけよこすと、やっぱり兵助。彼は白い花を数本持っていた。


「お前な、シカトはよくない」
「そんなことより何そのお花。似合わないんだけど」
「趣味で持ってるんじゃねーよ!見舞いだ 見舞い」
「誰の?」
「昏睡状態の鉢屋三郎氏」
「昏睡?」
「なんか頭打って倒れてたとか聞いたけど…雷蔵なんか知ってる?」


今日は先輩と楽しくお話しした記憶しかありません。


「さぁ、どうだろうね?」
「さぁ?って、お前…」
「僕このあと先輩に呼ばれてるんだ、じゃあね兵助、もし三郎に会ったらよろしく言っておいて」
「何をよろしく…おい、雷蔵!……あぁもう」


兵助を振り切って廊下を走った。

先輩が実習で作った料理が楽しみで仕方が無い。たとえ毒料理だって何だって食べれます、だってそこには愛の力があるんだもの!