お前って人間嫌いだよな。

いつだったか誰かに言われた。心底どうでもよかった。


(痛い)


お決まりのジュンコ捜索中、うっかりつまずいて枝が顔をかすめたのはつい先ほどの出来事。
学園内とはいえ馬鹿広い敷地は孤独になる。幾ら拭っても落ちる血に腹が立った。幸い額を切った程度で傷自体はそんなに酷くは無いけれど、確かな痛み。

ジュンコ、どこだ。
助けて欲しいと願うのはペットの爬虫類。他に何もない。


ふと、


「伊賀崎くん…?」


のろのろ視線を上げると真正面に、……名は忘れた、大して親しくもないくの一がいた。保健委員だった気がする。心配そうにこちらの様子を窺っているが、それに構う暇は無い。ジュンコを捜さないと。

横を通り過ぎようとしたら腕を掴まれた。人に触れられるなんて余りに久しくて、感覚が気持ち悪くてゾッとした。


「その怪我、」
「別に」
「手当てしないと」
「お前に関係ない」


乱暴に腕を振り払う。きっと酷い顔をしているに違いなかった。なんとなく見せたくなくて、さっさと背を向けて歩き出す。

また声がかかった。


「そういう態度よくないよ」


煩いな。


「…関係ないだろ」


大きく制すと諦めた様で追いもせず、そのまま別れた。
いつまでも耳に残る高めに自分の名前を呼んだあの声。

(煩いよ)

腕の温もりが。感覚が。あぁ ジュンコ!どこにいるんだ、助けてくれ。

だから嫌いなんだ、人間は。