私に構わず先に行って下さい。

血と混ざりながら発したその言葉をお頭は全く受け入れなかった。


「そうもいかないだろう」
「でも、もう助からないし」
「滅多な事を口にするな」
「(感覚が、)」


足手まといなんて死んでも御免だ。この人に就いて一生を過ごせればそれでいいと思っていた。
一生、絶える時もお頭の傍で。

なのに、お頭ときたら今まさに最期を迎えようとしている私を見捨てずこうして介抱している。そんなの柄じゃないのに。


「お頭、早くしないと、追手が来ますから」
「城に戻るぞ」
「は」
「お前の回復が先だ」


私の意見も聞かずに乱暴に背負われる。ぼろくずの様な体はどう扱われようともう痛みすら感じないのだけれど、それにしたってどこまで失態を見せるのだろう

(だったら早く、)

私はきっと死ぬ。それでもお頭が諦めきれずに仕事さえも投げ打ってこんなに必死なのは。


べたべたする血が、止まらない。
お頭さえも濡らして心底汚らわしい。

(あぁ、だから早く、)

死ねばいいのに、そんなことを考えてもそれはここまでしてくれるお頭の意志を踏みにじる事になってしまう訳で嫌だ。
私は結局どうすればいいのかわからなくなってしまう。


ずちゃ


足元の血溜まり。今まで散々殺しはしたけれど、それでもこんな大量の血は見たこと無かった。

ぼう、とする。

急に大人しくなってしまった私にお頭はずっと話しかけた。口数の少ない人なのに、本当に柄じゃない。悪いとは思いつつ小さく笑ってしまった。


「どうした」
「…あぁ、いえ なんでも」
「まだくたばるな、名前。俺はお前に言いたいことがあるんだ」


だから死ぬんじゃない。

とうとう私は泣いてしまった。
声を殺して、お頭の纏う忍装束に涙がどんどん吸い込まれていく。黒。緩やかに私の意識もその色に染まっていく。


(あたたかい)

(でも、ごめんなさい。ごめんなさい、お頭)


わたしにはあなただけがすべてで、とてもいとおしかった。



――もう戻ることは無いだろうと静かに目を閉じて闇に呑まれた。