人気の無い図書室は危険だ、何かが起きる。


「長次!」


呼ばれた本人は視線だけよこして頷いた。

そこへ書物を抱えた女子がよたよたと近付いてくる。
前が見えないらしい。


「うわっ」


ずべっ!


「ご、ごめん…」
「……………」


見事に横転し床一面に散らばる書物、女子は長次の腕の中にいた。
衝撃がなくほっとしていると、ぼそぼそ長次が呟いた。女子はくすぐったそうに身をよじる。すぐ耳元で喋られたからだ。

今更、気にする仲でもなく。


「名前、お前は注意が足りない」
「あはは、やだ やめて!あたし耳弱いの!」


聞く耳持たず。長次は見放して書物を拾い始める。名前は暫く床に寝転がっていたが、おもむろに起き上がると彼に倣って自分も手を伸ばし始めた。

意外に量が多い、と長次は思った。
先程の様にドジを踏むのであまり力仕事は頼みたくないのだが、それでも他の輩にどこかへ連れていかれるよりは自分の傍においておこうと。

単なる独占欲だ。

自嘲気味に小さく笑うと、


「珍しいね」


顔を覗き込まれる。

正直、反応に困ってしまい顔を背けることで長次はやり過ごした。
無言で本が積み上げられる。これでよし、と名前が手を叩いた。


「………名前」
「なーに」
「ありがとう」
「え、うん。別にいいよ」
「そうか」
「長次が頼まなきゃ来ないよこんなつまんないとこ」
「…ああ」
「…お礼の他に、何か言うことは?」
「忘れた」


いつもそうやって誤魔化すんだから!

呆れて笑う彼女を、やはり無言で抱き寄せると反動で書物が机から落下した。
愛してるという囁き声を埋めるように、バサバサと乾いた終りの音が聞こえた。