斉藤タカ丸は常々疑問に思っていた。
「なんで俺もてないんだろ」
ずべー、と畳に寝転がる。
ずいぶん脱力していた。実習に疲れた。もしかして忍は向いて無いんじゃないか、ってネガティブ思考がだらだら。
「なんでだろー」
返事なんて期待してないのに、
「結構女子に囲まれてるじゃん」
「いや、あれは…髪をどうにかしたい人!うん。え?」
聞こえた声に起き上がると室内の奥から にや、と笑顔。
まるでここは自分の部屋だという風な顔で女子が座っていた。
背を丸めて片膝だけあげて、そこに顎を乗せて笑っている。両手は組み替えたり放したりせわしない。
「名前、なんで」
「用事で来たらいなかったから待ってた」
「あぁそう…驚いたよ。用事って?」
「もう済んだ」
「は?」
こいこい、と手招きをされる。
ずりずり這って近寄ると名無しの手の動きが止まった。それに気をとられたタカ丸は彼女の両手が伸びきるのに反応しきれない(ねぇやっぱり俺忍に向いてないのかも)
「わ」
ちゅ、と軽く音を立てた自分の頬、感触を実感するより早く彼女の唇は離れた。
名残惜しい。
正直にそう思い、彼女の裾を掴んだが最後。
「タカ丸」
「は、はい(なんか怒ってる)」
「私がいながら「もてたい」とか口に出すのやめて」
「!」
ゾッとする。
手をはたかれた。
「すいません!」
「ふん、あんだけ女子に囲まれてても足りないってか」
「……すいません(俺の馬鹿!)」
「もういい、帰る」
「ちょっ」
用事って結局なに!?
叫んだタカ丸を振り返ることもなく襖越しに名前は答えた。
「あんたに会いたかっただけ」
タカ丸はすぐに彼女の後を追う為廊下へと飛び出した。