他には誰もいらないから、あんただけが欲しい。
他はいらないから。


「うぜえ」
「うるさい」
「頭が悪い」
「うるさい」
「馬鹿みてえ」


うるさい。

もうなんだかどうしようもなく落ち込んだ先、逃げて逃げて真っ先に救いを求めるのはいつでも文次郎のところ。
鍛錬を終えて寝付く頃、本当に暗い顔を貼り付けた私を迎え入れたあんたも悪い。
嫌なら追い返してよ。普段は厳しいくせに、なんでそんなに優しいの。


「寝ようとしてたんだぞ俺は」
「……………」
「盛ってんなら他の奴のところにでも行け」
「嫌だ」
「あぁそうかよ」


隈の解消、見込みはない。

大げさなため息が聞こえたかと思うと視界が反転した。
暑い季節、背中と布団の間に熱が生まれて、じわりと汗。
近い顔。


「あたし、これが目当てで来たわけじゃないからね」
「うるせえ わかってるよ」


でもな、お前が悪い。


耳元で言われてぞくぞくする。
布の擦れる音も肌の密着も何もかもが卑猥で、ただ熱かった。

そうやって受け入れてくれるから、あんたが好き。


「文次郎」
「んだよ」
「ごめんね」
「……もう黙っとけ」


あんたは他にも望みがある、道がある。

私は無いよ。失うもの、何も無いから。

一方的だけどあんたが全てだから。


(ただ抱いててよ)