「おいこら離さんかい」
「お前こそ迷惑だ、さっさと帰れ雅之助」
「あのー…私、戻っていいですか」
「「駄目だ」」
「……………」
なんで今日に限って小松田くん里帰りなんてするんだろう。
おかげで門前から動けないんだけど。この二人に捕まって。
普段私は屋内業務だから被害なんて遭わないのに。
先ほどから肩に置かれた手がプレッシャーで緊張する。
右は大木先生。
左は野村先生。
「ったく、いい年した大人がわざわざ喧嘩を売りに出向くだなんて…どこのヤクザだお前は」
「わしゃお前に喧嘩売りに来たわけじゃない、こいつに会いに来たんだ!」
も、戻りたい…。
「そうだ、君はどっちが好きなんだ?」
「はい!?」
「この際はっきりしてもらうぞぉ、どっちなんだ?」
「ど、どっちって」
酷く困惑して閉口。
箒を握り締めて俯いたきりの私に二人は苦笑した。
「馬鹿だなぁ、お前は」
「へ?」
「ラッキョウと納豆どちらが好きかという質問だ」
「え、あ、え?」
「可愛いのぉ!」
「こら!馬鹿がうつる、離せ!」
「わ、私…」
じっと見られる。
声を張り上げて盛大に主張。
「どっちも嫌いです!」
間。
「…………そうか…」
「うーん、そういうこともあるな!悪かった、もう行っていいぞ」
「失礼します」
ぺこ、と一つお辞儀をしてその場を後にした。
室内に入ってもまだドキドキしている。
嘘を吐いた。
どっちも嫌いだなんて、嘘だ。
本当は両方好きなんだもの。
何の話かって?
うん、ラッキョウと納豆の話だよ。
彼女が去った後。
「どっちも嫌いかぁ」
「珍しく応えたみたいだな」
「野村せんせーこそ 最初の質問、あれ違ったろ?」
どっちが好きなんだ。
「……さぁ、どうでしょうね」
「ずるいぞ、わしに誤魔化しはきかん!」
「でもお前も便乗したろうに」
「……さぁどうでしょうねー」
「(眼が泳いでる)」
「とりあえずアレだ、今後あいつの前で喧嘩はよそう」
「いつもそっちが一方的に売りつけてんでしょうが!」
いい年こいた大人が二人、門前で堅い約束を交わした。