「ふふふ、馬鹿だね」
「あ…やべ」


私は焦げた。
罠にはまった。


綾部くんは、三度の飯より罠が好き。という評判もあながち間違いではないという風に、日々罠三昧だった。

被害者は数知れず。
手加減、一切無し。


「火薬は危ないよ」
「そうかな」
「君ね、考えてもごらん。上級生はまぁいいとして、下級生は駄目だよ死んじゃうよ」
「そうだね」
「今まで何回同じこと言われた?」
「数えられないぐらい」
「……………」


飄々としている。
いっそ清々しいほどの無表情。

相変わらず表情に乏しいな…と見つめていたら、少し口の端が上がった。
笑ってる?


「…焦げたねぇ」
「あぁ、それで笑ってるのか……焦げたよ。君のせいでね」
「そうだね」


綾部くんは絶対に謝らない。


「なんでそんなに罠にこだわるの」
「なんでそんなこと気にかけるの」
「暇潰しにしては悪質すぎるから。被害がこれで止まるなら私は幾らでも君を追及するよ」
「ふふ」
「……………」
「罠はね、楽しいんだよ」


白い腕が、紫の衣から伸びている。
身を引く前にその手に触れられた頬。

笑っている。


「はまる人が悪いんだから。貴女もそうだよ」


それは。

一体どういう意味なの、と尋ねる前に綾部くんはフッと消えた。


置き去りの焦げた私は首を傾げる。
そんなに頭は悪くない筈だけれど、いまいち理解できなかった。

とりあえず「綾部くん」という罠にはまってしまったのだ、ということに気付いたのは後の話。恐ろしいことに。