「いー!…っくぅ、はぁ!」
「色気無いなぁ…」


求めても無駄かもしれない。いや、きっと無駄だ。

伊作は恐ろしいほどに擦過傷している彼女の腕に容赦なく消毒液をぶっかける。
先ほどから彼女が惜しみなく奇声オンパレードなのは治療を受けているからであり。

毎度「痛いのは嫌だ」なんて言う位ならもうちょっと怪我しないように気を付ければいいのに、と伊作が思うのもまた毎度のことである。


「いた、いたい…」
「はいはい いいこだったね、次回はもうちょっと気をつけてね」
「その言い方むかつく」
「はいはい」
「……………」


適当にこなすと、頬が膨れた。
扱い辛いことこの上ない。


「…伊作、このあと暇?」
「何かするの?」
「実技練習手伝ってよ」
「…ん?」
「なに、その顔」
「いや、腕が。一応訊くけど冗談言ってる?」
「言うと思う?」
「…手伝わないよ。ついでに許可もしないから」
「なんで!」
「腕!」


ぐっと包帯越しに弱く掴んでも痛そうな顔をした。
あ、その顔ちょっといいかも。とか思ったけどそんな場合じゃないと伊作は頭を振った。

こんな状態で実技練習だなんて…


「出来るわけないだろ」
「………ばーか」
「何言っても駄目なもんは駄目。他のことならいいけど」
「じゃあ遊んでよ」


結局のところ彼女は構って欲しかったらしい。
上目使いにねだられて動くのはやっぱり男心だと思う。

へら、と一つ笑ってすぐ傍の布団に押し倒すと、眼を丸くした彼女がよりによって拳骨で殴りかかってきた。
しまった、幻の左。重症なのは右腕のみだ。これはいけない。

まぁまぁ、と宥めながら伊作はふんじばる紐を探した。