あたし、野村先生大好き!


「またか…」
「なんですか、嬉しくないんですか」
「どうせ悪ふざけだろう、どいたどいた」


廊下にて通せんぼ。


「ひどい、先生。子供の悩みに対応するのは教師の役割ですよ」
「悩みとは?」
「先生が好…」
「子供が大人をからかうもんじゃない」


手で押しのけられて、呆れた顔で横を通ろうとする。
思いっきり腕を伸ばして先生の裾を掴んで阻止する。

血管の切れる音。


「離しなさい!」
「いやー!野村先生のばかー!」
「教師に向かって馬鹿とはなんだ!」
「だって馬鹿なんだもん!……馬鹿みたい、じゃん…」


自分で言いながら惨めになってきた。
この人は嫌がってるんだからいい加減諦めれば良いのに。馬鹿みたい。

視界が滲んだ。

前が見えなくなったら、大きくて硬い手の感触があたしのそれから伝わった。
引っ張られる。


「泣かれると困るんだ」
「…先生だから?」
「違う」
「………先生、好き」
「その件は保留だな」
「うわーん」


泣くな!と叱咤されてしまった。
先生は、女の子の扱いがなってないと思う。

結局、その後部屋まで送ってもらって無言で別れた。
あたしはその日、眠れなかった。悔しい事に。

(手の感触が忘れられない)
(大好きなのに)