「さーもーんーくん!」
呼ばれた本人が反応するより早く、二本の腕が後ろから伸びて左門の首を掴んだ。
「ぐぇ、」
「やぁやぁ 元気かい?」
答えようにも絞められていて苦しい。離していただきたい。
「……せ、…んぱ…」
「おっと失礼」
ぱ、と首が自由になり「ぶはっ」と息を吐く。
とんでもない、と憤慨して元凶を振り向けば空いた手が今度は左門の頭に伸びた。
髪の結紐を摘んで一気に引っ張る。
するり。
「なにすんですか!」
「やっぱ左門はアレだねぇ、意外と髪がサラサラなんだねぇ」
「撫でるな!触るな!」
「いいじゃん、別に減るもんじゃな……減るか。将来的に」
「……………」
「どうしたの?」
脱力しました。
なんていうか、逐一行動が読めなくて苛々する。
なんで、この先輩は毎度毎度自分にちょっかいをかけるのか。
疑問にしては馬鹿らしく、不思議にしてはあまりに奇怪な気がした。
「いい加減迷惑なんですが」
「いやん、怒んないでー」
「茶化すな!」
「なんだよぉ」
また伸びた手を撥ね返すと見事にむぅ、と膨れてみせた。
珍しくはっきり反発した左門に些か驚いたのかもしれない。
暫く互いに何も言わなかったので、左門はため息を吐いて背を向けた。
声がする。
「好きな奴にちょっかいかけたくなるのは当たり前じゃんねー」
慌てて振り返ったらそこには誰も居なかった。