「もういい加減暑いな」
「そうだね。夏は不便、引っ付けないから。暑くて」
そうは言うもののべったり背中を合わせた室内。
幾ら高い位置で結っても、格段長い自分の髪は項に張り付きまるで意味が無い。
いっそ切ってしまいたいな。と呟くと後ろから非難が飛んだ。暑い。
「やだよ、だめだめ。それはあたしの」
「馬鹿言え。私のだ」
「あたしには無いの、勿体ない。切らないで」
名前の髪は少しクセがあって短めで、それが堪らなく好きだった。
自分と違う珍しさもあったかもしれない。
畳が熱をもつ。
恋人よりは変人の方がしっくりくるような彼女は、暑かった。
「暑いねぇ、仙蔵」
「そうだな。好きだよ、お前が」
「…嘘だ」
「吐いてどうする。暑い」
「あたしは欲しい。欲しい。全部欲しいよ。」
仙蔵が全部欲しい。
熱に浮かれた上言。
つられて頷きそうになる。
同調すると、戻れなくなりそうで怖かった。
暑さにやられた室内はこの先の展開がどうにも読めずに困惑するばかり。
不快だ。
頭がおかしくなる。
だから嫌いなんだ。夏は。