「やーい、馬鹿」
「うるさいな!」


見上げれば、丸く切り取られた視界に少しの空と兵太夫。満面の笑み。周りは、土。
ていうか、罠にかかった訳で。
しかも落とし穴とか超古典的な子供騙し。笑ってんなよ。腹立つわ。


「ばーか」
「やたら罠作るあんたが馬鹿だ!」
「引っ掛かるほうが僕を上回る馬鹿。それでくの一見習いとか結構ヤバいよね。辞めれば?」
「なんでそんなこと言うの!ばかぁ!」


アンタなんか今すぐ消えろ!
そしてあたしに空を明け渡せ!

わめいても退かない。
次第に喉が疲れてあたしは落ち着いた。

「馬鹿」の応酬も終わる。


不意に兵太夫が消えた。
空だけが残った。
確かに消えろとは言ったけど、あんまりだ。
………心細くなってしまう。

開けた空に泣きそうになる。


すると、ひょっこり兵太夫が舞い戻って来たので慌てて顔を硬くする。
涙とか見せたらまた馬鹿にされる。
でも遅かったかもしれない。兵太夫は顔をしかめていた。


「ま、また馬鹿にしに来たの」
「本っ当に、お前って、馬鹿」
「……………」
「ほら」


空と兵太夫から縄が伸びた。
掴む。
引っ張っても兵太夫がしっかり握ってるからちっとも揺らがない。

辿って地上に出る。
空は広くて、兵太夫に抱きしめられた。


「僕も馬鹿だからさ」


お前の困り顔見たさに罠仕掛けるの止めるよ。


そんなこと言われたらもう何も言えないじゃんか。ばか。






(好きな娘は徹底的に虐めるけど、アフターケアがしっかりしてる)