疎ましかった。
ただの実習から帰る度にこれじゃあ気分が悪い、そろそろ態度にも表れる頃だ。
感極まる舌打ちに予想通りの反応。
「…怯えた面だな」
「…………」
「毎度泣きに来るだけならうざってえ、帰れよ」
治るもんも治りゃしねぇ。
だったら最初から会わないようにすればいい、だなんて。
…出来たらどれだけ楽なんだか。
実習で怪我をすれば医務室に世話になるのは必須。
コイツは保健委員なのだ、運が悪い事に。
呼んでもいないのにこうして手当てに来る様はやはり俺とお前の間柄だからか。
「帰れよ、これ位は自分で処置出来る」
「………あ」
「何度も同じ事言わせんな」
バン、と荒々しく救急箱を閉じれば一層怯えた体が跳ねる。
思ったよりもでかい音に危機感を感じたのはお前だけじゃない。
馬鹿野郎、気が立った人間に沈黙は逆効果なんだよ。苛付く。
先に諦めたのは俺の方で、無視して処置を始めると小さな手が横から伸びる。干渉。もういい加減にしてくれ。
「………お前、」
的確な処置。痛むのは。
「馬鹿なのか」
罵る。
自分でもどんな顔をしているか分からない。
あるのは泣いたお前の眼、それでも手の動きは止まることは無い。
処置が終了したところで一息吐き、頬を叩かれた。
乾いた音が余りにも大きくて耳がおかしくなりそうだった。何も感じられない。痛みさえも。
やっと口を開く。
「私は怖いよ」
「…………」
「ただ、あなたが傷付くのが。最悪死ぬのが怖い」
「………恋人だからか」
「そこを差し引いても…」
俯いて黙ってしまった。
傷だらけな体で包むと嗚咽だけ聴こえた。
呟いたのも。
「馬鹿でも、痛みはわかるもの」
俺は今更後悔した。