伊賀崎孫兵は頭を抱えていた。
目前の光景に対して全くもって思考が働かないからである。
「どうすればいいんだ…」
…地面に力無く横たわったくの一教室の先輩。
その横をジュンコが這っている。
まさかまさかまさか
「ジュンコ……噛んだのか…?」
小さい声で弱々しく問い掛けると、ジュンコは口を大きく開けた。
ひぃ、と息を吸った孫兵の絶叫が喉を裂く。
「っ、わー!!」
突如咆哮した主人に驚いてジュンコはおろおろと先輩の体を這った。
あんまりだ、と孫兵もその場を徘徊する。
ついに人を殺めてしまった!
あぁ、あぁ、どうしよう。
歩き回っても仕方が無い、ぴたりと動きを止め、恐る恐る先輩を見る。
血の気が失せた顔は普段よりいっそうと色が無く作り物のようで。
しばらく見惚れていたが、違うそんな場合じゃないと頭を振る。
とにかく保健室だ。
体格的に、気を失った先輩を自分は運べそうに無い。誰か呼ぶしか無い。そう思うとすぐに走り出す。
途中、振り向きながら孫兵はジュンコに言った。
「ジュンコ、先輩を見ててね!もう噛むんじゃないよ!」
慌ただしく去る少年。
見送って、何とは無しに蛇が舌を出し、くの一の頬を舐めた。
開いた眼。
「忍法・死んだふり、なんつって」
べ、と舌を出して起き上がる彼女。
同じく体を伸ばし自分と目線を合わせた蛇に言葉を掛ける。
「お前の主人、可愛いねぇ」
笑うと、蛇も嬉しそうに口を開いた。