「あのね、保健室の布団占領されちゃ堪らないんだけど」
「………」


薬臭い部屋で丸まった布団の塊。
中から返事は聞こえない。

外は荒れに荒れ、雷・強風・大雨の3コンボである。

伊作の溜め息も騒音に掻き消された。
もう夜に差し掛かるというのに、本日最後の病人はまるで帰る気配が無い。
むしろ布団からも出てきやしない。

いい加減溜め息も飽きた(尽きた)ので、その塊に話かけることにする。


「ねぇ、そろそろ閉めたいんだけど、ここ」
「…………」
「朝まで止まないよ」
「…………」
「まさか一晩中ここに居るの?」


それって僕も巻き添えなんだけど
いくら雷が苦手だからって…

ぼやこうとしたその時、


ピシャーン!


凄まじい音、塊はより一層小さくなって。
そっと布団の上から手を添えてやる。


「これじゃあ帰れないか」
「…………」
「…君を置いて帰るっていう選択肢もあるんだけど」
「…………」
「ん、なに?」
「………、…」


とても小さく、騒音の中。
やだ、と聞こえた。


ふふ、と笑って塊を撫でる。


「そしたら一晩二人っきりだね」
「…………」
「しかも布団は一組しかないんだ、どうしよう」


返事がなくなった。
たまにはこういうのも面白い、なんてヨコシマだろうか。

襲うよ、と言ったら布団が震えた。