朝、身を起こすといつもなら隣りでまだ寝ている筈のお前がすぐ傍で正座していたから驚いた。
寂しい眼に悟った。きっと、別れなのだと。
それはひどく綺麗に発音された。


「さようなら」


きっと練習したに違いなかった。お前はその場の雰囲気なんかであんなに滑らかに別れなど言えないだろう。練習していた、というのは即ちお前の気持ちが決まっていた事実を裏打ちしている。恐らくずっと前から。
お前は音もなく俺の元からするりと抜け出していなくなった。
じくじく痛む胸の内で思い出していた。眼差しや声、体温だとか指先まで。お前はよく笑い、よく怒った。けれど結局、涙だけは最後まで見せなかったな。
襖を見やる。中々動かない小さな影が不規則に震えていた。開けたら最初で最後、お終いだ。俺は布団に腰を張り付けて動かず、遠くか細いお前の声のみをただ聞いていた。