どたどたどたどた


「こら!」
「ぎゃーっもう見つかった!」
「危ないから船内に乗り込むなって言って…あぁ逃げるな!」
「べーだ」
「!」


またしても再開される終わりなき鬼ごっこ。毎度恒例で、今では彼女を捕まえようとする者は自分以外にいなくなってしまった。

あーまたあいつ?
ヨシ、頼むわ。

…冗談じゃない!


「待てクソガキ!」
「ガキじゃありませんレディーですー」
「毎度悪戯する奴のどこが女だ」
「好奇心旺盛なレディーなんですー」
「…………」


彼女の逃げ足は速い。あっという間に広い船内へと潜り込む。しかし片端から部屋を探す必要は無い。毎度恒例なのはなにも鬼ごっこだけではない。


がたーんがしょーん


…聞こえるのは自室からの破壊音。
案の定逃げ込み先もお決まりの場所だった。ため息もそこそこに、戸を開けるとやっぱりいた。室内はあさられて目もあてられない状況だ。

目が合う。彼女は掛け布団(であったはずの布)に包まりにこにこしている。


「やぁやぁ早かったね!」
「…………」
「義兄の持ち物いい匂いするから好きー、……?」
「…………」
「……あのー」


いつもと違う態度に彼女は若干不安を感じたようだ。おそるおそるの上目使いでこちらの機嫌を窺っている。


「どうされました、か」
「お前、今日こそは本当に許さないからな」
「えっと…」
「怒ってますよ」


無理矢理笑顔をつくってみせると彼女は小さく声を上げた。普段女には優しい自分にも限界は、ある。毎度毎度疲れる、こんな生活。だったらいっそ一発痛い目に遭わせたほうが絶対にいい。
後ろ手で襖を閉めると彼女は真っ青な顔をして後ずさった。


「…よ、義兄」
「なに」
「ごめんなさい!」
「もう遅い」


さて、どうしてやろうか。