「おええ」
「だ、大丈夫ですか…」
心配そうに覗き込んだ顔を、悪いと思いつつも睨みつけた。案の定彼は怯む。私は揺れまくる海上で一人寝込んでいた。
「だから貴方は船に乗るべきじゃないんですよ」
びたりと濡れた手拭いが額に貼り付けられた。
私はお頭についで船酔いが半端じゃない。それゆえ滅多なことでは船には乗らないと決めていたのに。
「ごめ、なさ…」
「いきなり乗り込んできたから驚きました」
「うぅぅ」
「もう陸に戻りましょう」
「い、や、です」
「なんでそんなに頑ななんですか…」
普段なら陸に上がった彼を看病するのが私の立場だ。
「…今日、は」
「はい?」
息も絶え絶えな私に彼は耳を寄せる。
「鬼、さんが一人で海番だって、…聞いて」
「…あまり喋らない方が」
「一人だと、寂しいかと、思ったんです」
だから、無理矢理、ね。
なんだか複雑そうな顔をしている彼の服を掴んで引き寄せる。咄嗟に倒れるのを防ごうとして、私を挟むように両手をついた。
顔が近い。みるみるうちに真っ赤になる顔色。首に腕を回す。
「二人きりって…久しぶり」
「え、え、え」
どうしようどうしようと盛大に焦っている風だった彼は、三秒後すぐに酔いでむせた私の看病を再開した。