一人の娘が甲板に忍び寄る。
目当ての人物の背後に立ち、ぐい、と着物を引っ張れば面白いほどに驚く男。


「わっ、ああ!」
「こんにちは、鬼蜘蛛丸さん!」
「あ、…こん、こんにちは!」


娘を見たら見たで目を白黒させてあたふたしている。


…甲板後方にて、なんだか面白そうだと野次馬の影が複数。


「もうちっと横ずれてよ」
「いやこれ以上はバレるバレる」
「重ー網問ー何やってんだ」
「義兄、あれあれ」
「おお、あれは鬼蜘蛛丸さんと意中の娘!」
「ちょっと義兄、押さないでよ」
「お前ら仕事サボって何してるんだ…」
「ミヨさん、カマン!」
「は?」



「今日も大変そうですねー」
「え、あ、その」


そう言いながら興味津々に作業を覗き込む快活な娘に成す術無し。


「鬼蜘蛛丸さんってあーいうのが好みなんだー…意外…」
「あーいうのって言うな、一応女なんだから」
「ミヨさんも中々キツイよ」



「まぁ、日課なので…」
「凄いですねぇ!」
「あ、いえ、その」
「私でよければ何か手伝いましょうか?」
「えっ、……じゃあ傍に!傍に居て下されば結構ですから!」


よほど面白いのか義丸が甲板をぶっ叩いているのを見て舳丸は若干引いた。


「………お前ら適当に持ち場に戻れよ…」
「え、ミヨさん見ないの?」
「これ以上見てると毒にやられるぞ」
「あー」


確かにあそこだけ空気が桃色な気がしなくもなくもない。

「幸せってのはいいことだ」と義丸が言う。
重が「義兄が言うと嘘くせぇや」とぼやいたら盛大にどつかれたので網問は悲鳴を上げた。



「今なにか聞こえたような…?」
「(あ い つ ら!)」