三郎と名前が部屋でくつろいでいたら唐突に、


「なぁ」
「なに?」
「私、お前が好きなんだ」


名前は思わず書物から目を離す

冗談にしては笑えない、意味が解らない


無言で訴えたら


「なっ、……あ!」


三郎の手が伸びて畳に押し伏された


「ちょ、ちょっと!」
「本気なんだ」


どうすればいい?


(そんなの私が知りたい!)


名前の両手は三郎の片手によって頭の上で束ねられ、手の甲に感じる畳の厚さ

ぐるぐるする
気持ちが悪い訳が解らない

何よりも怖かった
眼が。眼が離せない


空いてる片手で頬を撫でられる


「やっ」
「………」
「ね、三郎やめてよ怖い…やめて!」
「…………」


無言

微かに笑って指は名前の首筋を伝い鎖骨を伝い肌を……


耐え切れず潤んだ視界で彼女は襖に影を見つける
今、覆い被さってる人物と同じ影

影は言う


「………なに、してるの?」


三郎と影、雷蔵の視線が結ばれる

名前が助けを請うより早く、


バンッ


三郎の体が横に飛んだ

雷蔵にしっかり抱きかかえられながらも名前は茫然としている


「なにしてたの!」
「ら、雷蔵……」
「痛ぇ」
「…うわーん雷蔵ー!」
「うん、大丈夫だから……行こう、…見損なったよ三郎!馬鹿!」
「おい、待て待て」
「馬鹿ぁ!!」
「私の話を…あーもー!」


頬を腫れさせた三郎の言い分もお構いなしに二人は部屋から出て行ってしまった


一人ごちる


「今日は嘘吐いても良い日だろー…」


三郎は後程食堂にて、豆腐を頬張る兵助(事情承知済み)に散々愚痴る事となる
誤解が完全に解けるまで三日はかかったそうだ