自室で寝転がりぼんやりうたた寝をしていたら唐突に荒い足音で場を乱され、あろうことか背中を蹴り上げられた。こんな乱暴をするのは名前以外に心当たりがない。相変わらずうるさいなぁとこすった目を疑った。


「寝てる場合じゃないよ伊助ちゃん!見て、酷くない?」


指で示す先、制服の袴がずっぱり切れていた。腿から膝にかけて縦一文字。見事な切り口から察するに獲物は刃だろうと思い至り、すぐ名前を頭から爪先まで確認するが特に外傷はみられない。裂け目から覗いている太腿も綺麗だった。


「なんだよこれ」
「実習でやられちゃったよー」
「どうしろと」
「私お裁縫不得意なの。知ってるでしょ?」


可愛らしく言ってるけど語弊がある。名前は不得意ではなくできないのだ。そんなの幼馴染だからわかりきってるんだよと白い目で見てやったら幼馴染のよしみで繕って下さいと土下座された。とにかく太腿が目の毒だった。


「仕方ないなぁ」
「ありがと!」
「脱げよ」
「あんた今どれだけ衝撃的なことを言っ、」
「脱げよ。じゃなきゃ縫えない、ってか縫わない」
「はい…」


とはいえ脱ぐとなると居た堪れない気持ちになるのは確か。さすがに長い付き合いでもこんなことはなかった。目をつぶって顔を背けると、衣の擦れる音、暫くして手渡されたそれを握り締めて視界を開ければ座り込んだ名前を見つける。正座を崩した格好で上着を限界の長さまで引っ張っていた。


「興奮する?」
「これっぽっちも」
「うわーん」


お前の面倒を見るのなんて今更だから、なんていうのは嘘だった。少しの毒を含んだ膝小僧が視界の端にちらつく。意地になってるのかわからないけど気持ち悪い甘ったるい声で呼ぶんじゃない、手元が狂うだろ。