薄暗い部屋でずーっと何かをいじっている。
目が悪くなるよ、などと話しかけても返事は一向になく、その対応にふてくされて座敷の隅へ座り込んだのは夕方だった。
今、襖の外は真っ暗闇で埋まっている。夕飯食い損ねたっぽい。目前でがたがたやらかしてる兵太夫も同様だが、彼はまず食に対して興味が無い人種なので例え二日食わなくても平気で活動するので論外だ。私が馬鹿みたいだ。
まだいじっている。
ふわふわの髪を蓄えたその頭をいい加減叩いてやろうかと思ったその瞬間、
「出来た!」
歓声。
呆気にとられた私をよそに散々それ(なんかからくりっぽいもの)を愛で、こちらを向いた笑顔はすぐに疑問符を飛ばす。
鮮やかなその表情の変化を眺めていた私の腹の内はとっても複雑だった。
「なんだお前いつからいたの」
「…さすがにそれは無いんじゃないの兵太夫さん」
「気配無かったよ」
「ずっと話しかけたんだけど」
「全っ然聞こえなかった」
「知ってる」
兵太夫はなんだかちょっとバツが悪そうに視線をそらしている。ため息を吐いてみせると「存在感の無いお前が悪いよ」と開き直りやがった。もう慣れてるけど。悲しいよそういうの。
見れば、からくりっぽいものを持っている手は傷だらけだった。
「手、痛くないの」
「べつに」
「本当は痛いんでしょ?」
「うるさいな、それより疲れた。膝貸してよ」
ひざ?
ぼけっとしていると、猫みたいに這い寄った兵太夫はあっというまに私の膝に頭を乗せた。
ずっしり感じる重みにやっとわかった。甘えられてるに違いない。無視も暴言も慣れてるけど、さすがにこれは珍しくて照れた。
私の気も知らないで、少し唸りながらごしごしと目をこする仕草も猫っぽい。
傷だらけの手と綺麗な顔があべこべで笑うと、眠そうに「死ね」って言われた。
薄い月明かりがぼんやり彼の輪郭を照らす。
「触ってもいい?」
遠慮がちに尋ねれば、そんなこと一々聞くなよばーか、だってさ。
勝手に触ったら怒るくせに。不満をぼやきながら指で髪をそっとはらって額へ口付けた。