ただいま銃弾の飛び交う佐武村よりお送りしております。


「あっこんなところにいたんですね若太夫!」
「やーご苦労」
「何がやーですかやーじゃないでしょ!」


ぷんすか怒った名前がずかずか踏み込んできた室内は、慌ただしい外とは別世界でごくのんびりとした空気に保たれている。
だらだらと畳に寝転がっている俺を苦い顔で見つめている彼女は黒い忍装束を着込み、細い体に似合わない火縄銃を背負っている。全体的に小柄だがこれでいてかなりの凄腕だから侮れない。
絶えず聞こえる銃声には、さすがの自分もなんだかなぁと思う。おかげで屋敷の中は火薬の匂いが蔓延し、煙たくて仕方が無い。
どっかの城の因縁とかでよその鉄砲隊が奇襲をかけにきているようだが、はた迷惑極まりない話だ。


「昌義様が前線にいらっしゃるというのに…」
「だって父上が引っ込んでろって言ったんだし」
「照星さんも探してたんですよ!」
「まぁ頑張ってくださいとしか言えない」


呆れも心頭に達したのか、何も言わずにその場にへたりこんだ。にっこり笑ってみせると睨みつけられる。

名前とは、もうかれこれ五年の付き合いになる。みるみる背を追い越したからあんまり実感わかないんだけど、そういえば年上だった。ついでに苦労性だ。


「それでも佐武村の若頭領ですか…」
「でもさぁー」
「危ない!」


咄嗟に押し倒される。
ちゅいーんという音の後、襖を裂いた一瞬の弾丸は見事に自分の座っていた軌道に沿って発射され、通過して後ろの壁へぶちあたった。
うわー本当に危ないなぁと床に倒れた状態で抜けた声を出すと名前はついにキレた。馬乗りのまま。


「若太夫、あまりにも自覚が足らないと思います!」
「うーん」
「狙われてるんですからもう少し、……?」
「……………」
「どこ見て…」
「谷間が」
「!」


笑顔で指差すと、無言でぼこぼこにされた。なんか普通に戦うより重症のような気がするんだけど、本当に護衛役で大丈夫なの?今更そう思う。
まだ怒っているのでごめんごめんと軽くいなして上体を起こした。
彼女の背中にある銃を指差す。


「それ貸してよ」
「え」


片側の襖は開いたままだ。気配は消えない。


「だってまだそこにいるし、危ないでしょ」


背中から勝手に引っこ抜いても何も言わなかったので了承の意にとった。
名前の腕を引き、自分の後ろへ追いやる。すっぽり隠れるから安全だ。向こうも、木の上から構えている。


「ねぇ、俺がさ」


構え、


「奥の間に待機の意味、わかる?」


定め、


「それは…」
「奥の手だから」


撃つ。

引き金を引けば、バンッという大袈裟な音がして、すぐに木の向こうへ影が落ちた。
急所撃ったかな、いやだなそういうの。狙うときは急所ではなくその人の利き腕と決めている。
そうすれば命は助かるけれど、腕は使い物にならなくて二度と復帰できないから。

昔、それを教えてくれた人物は横でただ呆然とするばかりだった。


「…すごい」
「奥の間に奥の手」


父上も意外に洒落好きなんだよねぇ。
笑いながら銃を返すと、名前はそれを背中にしまいながら天井を見上げた。

「いつもそうだといいのに、若は」っていうのは聞かなかったことにする。