うんとこしょーどっこいしょー
それでもカブは抜けません。


「うんとこしょぉぉぉ」
「お前、なにやってんの…?」


なにやら裏庭から得体の知れない声を聞きつけた団蔵が好奇心に負けて覗いてみると、そこはやっぱり得体の知れない不思議な世界でした。
…ではなくて。


「だ、団蔵…いいところに!来て見て触って手伝って!」
「はぁ?」


先ほどから必死に名前が引っ張っているのは地面から生えているでかい草だった。草というより何かの野菜の葉っぱのようだが、大きさが半端ない。超でかい。名前はもちろん、団蔵の背丈よりでかい。
正直こんな植物を見たのは初めてで、あぁ俺も計算のやりすぎでヤキが回ったかも、と自分の脳みそを疑い何度も目をこすり瞬きをしてみても現実は確かにそこにある。
名前曰く、これを撤去しないことには身の委員会活動に支障をきたすらしかった。団蔵が後ろを見ると、たくさんの花の名前が書かれた袋が散乱している。生物委員会って園芸もやるの?って呟いたら、だって生物だもんとあまり明瞭でない答えを寄越された。さよけぇ。


「で、これ結局なに?」
「わかんない!」
「ちょっとどいてみ」
「うん…」


腕捲くりをした団蔵は草を掴む。


「よっ…!」


みちみちみちっ


「あーやっぱり無理そうだね…」
「そーだねそのようだね…」


掛け声をかけて踏ん張ってみたり我武者羅に押してみたり時には優しくしたりと手を尽くしてもまるで歯が立たない。草はずっとそびえている。
ぜえはぁぜえはぁ荒い息だけが辺りに響いて虚しかった。


「いっそのこと燃やしちゃえば?」
「これから種蒔くのに土壌荒らしてどうすんのさ」
「つってもなぁ、抜けねーし…」


虎若でも呼んでこようか、そう尋ねるより早く名前はまた草にしがみついた。どうしても引っこ抜きたいらしい。仕方ないので団蔵も付き合うことにする。俺寝てねーんだけど、三日ぐらい…


「手伝いますよお嬢さん」
「あら頼もしいわ」


しかしこれはかなりの密着率じゃないだろうか。細っこい腰に手を回す。

むに。


「GYAAAAどこ触ってんのアホォ!ビックリするでしょ!!」
「俺はお前の叫び声にビックリだよ!」
「真剣にやりなさいよー!」
「やってるっつーの!」


やいのやいの騒ぎも落ち着き二人揃って冷静になったところで。


「「せーの!!」」


みちみちみちっ


「んーっ…!」
「(やっべすっげ柔らけー)」
「あんた、今、変なこと考えたでしょ!」
「考えてません!」


みちみちみちっ…


「そいやぁ!」


ずっこーん

一昔前のコケ方の様な音を立てて草は抜けた。
大きな反動で二人は倒れたがそこはさすが団蔵、咄嗟に下敷きになって名前を護った。
息絶え絶えに起き上がると、後ろにはその立派な姿態を横たえた、


「大きなカブ…」


なぜか感動している名前をよそに、これ今日の晩飯に出るのかなぁと団蔵は思った。