私のヘルプミーを聞いてすぐさま伊助は駆けつけた。
「久しぶりに帰って早々…」
「ご飯作ってぇぇ昨日から何も食べてないのよう」
「なんでだよ」
「雇い人が身内の不幸でいなくなっちゃったの」
説明したら呆れ顔をする伊助。広い家に隙間風がびゅうびゅう吹いて寒かった。両親の存在なんて知らずに育った私以外誰もいないこの家、伊助がいてくれるだけで違った空間になる。
お願い。手を合わせると、ため息と共に背中の荷を降ろした。広げたそれには食物の数々。
「台所借りるよ」
「うわーんありがとう!」
彼が消えて暫くすると、いい匂い。
腹の演奏会も我慢して、もう暫くすると
「ほら」
「っきゃー!」
思わず天才じゃないのと言いたくなる品物の数々。運ばれてくる度に騒いでいたら拳骨を二発もらったのでいい加減おとなしくした。
お許しを貰うと同時に飛び掛る。
「いただきます!」
あとはもう夢中だ。
昔から器用な子だとは思ってたけど、本当に何をやらせても上手い。むっちゃ美味い。雇い人とは比べ物にならない。
伊助はがっつく私を眺めながら静かに食べていた。
「んまいー」
「そう」
「感動するー」
「…名前さぁ、もういい年なんだし料理ぐらいは自分で出来るようにしなよ」
「伊助ちゃんがいればそれでいいじゃないの」
「僕がいつまでも傍にいると思うなよ」
目を丸くして見せると、むすっとした伊助は部屋を出て行った。意外に早食いなのかもう食事は終えていた。
逆に私は箸の進みが遅くなる。やがて止まる。止めた。喉に入ってこないからだ。
「伊助ちゃん」
返事はない。
「伊助!」
返事はない。
あーどうしよう愛想尽かして出て行っちゃったのかなぁ。
少しだけ残った味噌汁がゆらゆらしている。彼好みの薄味なそれは、とてもおいしい。私にはつくれない。
私、一人じゃ何もできないんだ。そんなの知ってる、けど。
「伊助…」
「そう何回も呼ばなくても聞こえてる」
「あれぇ!?」
思いも寄らない声に顔を上げたら林檎が山盛りな皿を持った伊助がいた。
「帰ったのかと思ったじゃん!」
「わざわざ剥いてやったのになんで怒るわけ」
「…………」
「ほら、あーん」
伊助が摘んだ林檎を、口を開けて受け取った。
「どう?」
「うん…」
甘くて、安心して、ちょっとだけ泣いた。