どたどたどた!

襖の向こう、廊下側から不穏な足音が近づく。その音にあわせて自分の心拍数も上がる。
それが誰かは、予想がついた。


「助けてらんたろー!」
「や、やっぱり」


常連客の彼女は連日大なり小なり怪我をこさえてはこの医務室へやって来るのだった。
今日は特に目立った外傷は見られない。首を傾げると、唐突に彼女は上着を脱ぎ始めた。驚いたのも束の間、慌てて後ろを向く。


「何してるの!」
「今日の怪我は背中なんだ、切られちゃった」
「何で切られるの!?」
「くの一の実践練習って怖いんだよぉ」


特に対戦相手が嫌い合ってる女子とかだとね。

恐々前を向いたらスタンバイしている背中がそこにあった。結構大事でまだ血が噴出している。
今日下級生いなくて良かったなぁと思った。中々の衝撃映像だ。


「そんなに熾烈な争いなんだ…」
「うん、男の取り合いとかうんざりだよ」
「…まさか好きな男いるの?」
「さぁね」


濁された。
薬を摺り鉢でごりごりやってる間も気が気じゃない。いつの間にそんな相手が出来たんだろう。
素直に嫌だな、と思った。
妙な沈黙の中、「怪我なんてさぁ」彼女が言う。


「ほっといても治るんだよ」
「…なに、いきなり」
「それでも私は乱ちゃんに会いに医務室に来てるのにさ」
「えっ」
「…………」
「名前、それってどういう」
「嘘だよーん」
「………!」
「顔赤いよー」


呑気に笑う彼女に気付かれないよう、超染みる薬草を混ぜていた。今日は絶対泣かせてやる。