「落し物です」


そう言って低学年が事務室へ届けた布には見覚えがあった。







「あ、いた」


私の手が握っているこの布。
持ち主はきり丸だ。すぐに見当がついた。冷え性気味な彼がいつも首元に巻いていたのをよく知っていたし、

「寝てる…」

現に今、大きな木の下で眠っている彼は首に何も巻いていなかった。
寒くないのかなぁ。
近寄ってまじまじと見つめる。相変わらず綺麗な顔だった。見ていて飽きない。
しかしどうしたものか。せっかく寝てるのに起こすのも可哀想だし、かといって冷えで体を壊されても困る。
考えた末、極力起こさない様にそっと首へ布をかけてやることにした。
すると。


「隙あり」
「へ!?んっ」


悪戯っぽく煌いた瞳、かすめる様にほんの一瞬だけ重なった唇。
何が起きたか理解出来ずに尻餅をついて後ずさると指をさされて笑われた。


「い、いつから」
「最初から起きてた」
「(はめられた!)」
「名前さん、全然慣れねぇなあ」
「うるさい」


彼はにこりと微笑んだ。
寒いでしょ。そう言って私を引っ張ると抱き締めて布を半分こ。
互いの体が密着してとても暖かい。そして顔が熱い。ドキドキしている。
顔をそらすと指で頬をつつかれた。


「怒ってる?」
「不意打ちはやめてよね」
「ごめーん」
「もう!」


…彼が私を呼び出す為にわざと布を落としたのだと気付いたのはだいぶ後だった。