空は高く済んでいる。秋だ。そろそろ肌寒い。
ぼうっと池を見つめていると、不意に首元の布が締まり呼吸困難になる。


「ぐぇ」


水面に映ったのは


「名前か」
「どうしたのきりちゃん、気配に気付かないなんて…センチメンタル?」
「ばーか」


少し咳き込んでから再度池に視線を戻す。今度は横に座る彼女の姿が映った。どちらからともなく寄り添う。
涼しい風だ。隣に体温。


「…そうかもな」
「え?」
「センチメンタル」


無言の彼女をほうって腕を池に伸ばした。べしゃ、と変な音を立てて水面に手が沈む。澄んだ池はこれも澄んだ空の色をしていて、とても冷たかった。
もし空にこの身が浮かんだなら同じ冷たさを感じるだろうか。
秋は物悲しくていけない。


「きり丸」
「死にたくなるな」


ばしゃっ

瞬間、彼女の手も空色に沈んだ。水中で俺の手に絡む。その部分だけ、熱が生まれる。
どうしようもない後ろめたさで胸が詰まり、まともに彼女の顔を見れない。
池の水面から波が消えて穏やかになった。まるで絵の様に景色に組み込まれて動かない互いの手。
繋がっているのに。

(どんどん冷たくなる)


「やめて」
「やっぱり俺ってあの時死ぬべきだったのかな」
「そんなこと、言わないで」


加虐心が湧き上がり、笑う俺。幼少時の話はちっとも楽しくない。
俺は狡いから、名前を困らせるのが好きだ。罪悪感なんて微塵も感じない。
無理矢理手が水中から引き上げられる。ぽたぽた水滴が這う寒気。堪らず上を向いた。


「それなら私も死ぬよ」


空が高い、こんな日は。