「団蔵せんぱーい!」
「うわぁ!!」


突如植え込みから飛び出た人影に団蔵は心底驚いた。


「あ、あぁ、名前か…ビックリした」
「先輩、今日は約束の日ですよ」
「そういえば!」


忘れてたんですか!

むぅ、と頬を膨らませた彼女の頭に手を当てて適当に誤魔化す。照れたように頭を振って払いのけられた。


「お、可愛くないな」
「子ども扱いしないで下さい!」
「(つっても五歳離れてるんだし)」
「先輩、早く早く」
「わかってるって」


今日は、団蔵の馬に名前を乗せて町まで遊びに行く約束である。
その場に少し待たせ、馬を牽いて戻ってきた。ひょい、と彼女を抱き上げて先に座らせる。


「気をつけろな」
「だから!子ども扱いしないで下」
「はいはい」
「………!」


軽々と自分も馬に乗り手綱を引けば、馬は前進を始めた。
団蔵の体温を背に受け、彼女は至極楽しそうに鼻歌を唄う。なんだか胸が高鳴るのは、馬に乗れた興奮と町へ遊びに行く期待と、それから、……?

(これは只の憧れなんだから!)

後ろの先輩を意識なんてしてないと思う名前。振り向くとにっこり笑う団蔵。

彼女が『恋』という一文字に辿り着くにはもう少し時間が必要みたいだ。