壁際に追い詰められる。
これ以上後ろに下がれない。背をべったり張り付けると、

だん!

顔の横に手を付かれた。
のろのろとその白い腕を視線で辿っていくと兵太夫が。居る。
そんな中、私は(また何か怒ってるなぁ)とぼんやり他人事のように感じていた。
もう片方の手も付いて私を挟むようにすると、端正な顔が近付いた。スレスレの距離。


「なんで今こういう事になってるかわかる?」
「さっぱり」
「僕の性格は?わかるよね?」
「多少は、」


返事が気に食わなかったようだ。また ばん、と壁を突く。衝撃は背中を伝いビリビリと全身を襲った。
抑揚の無い声がひっそりと耳に届く。


「ぜんぶわかってるくせに」
「わかんないよ、なんで怒ってるの」
「お前は僕の玩具なんだからさ、黙ってればいいの。他の奴と話す必要は無いの」
「……………」
「お前が話すのは、僕だけでいいの、ねぇ、」


なんか言えば?

眼を逸らせない。
そんな事したらまた癇癪が起きる。何かされる。
つまるところ、只の嫉妬だ。しかも随分と子供染みた。
笑えないな。
切り揃えられた前髪に指先で触れると彼は眼を閉じて、そのまま、


「ん」


あぁ、意地悪な子。