「きり丸先輩!」
呼ぶと遠くの背中は反応して振り向く。犬みたいに走り寄るとわしゃ、って頭を触られて
「ぎゃあ」
変な声が。出た。
「なにするんですか!」
「犬みてぇと思ってさ」
「(やっぱりか)ひどい…」
「なんか用?」
「いや、別に…」
「……………」
「…先輩、首もとの布 暑くないんですか」
「 別に。オレ冷え性なんだよ」
「へぇ…」
「飯食った?」
首を横に振ると「じゃあ行こうぜー」と手を引っ張られる。鼻歌交じりで強引に早足。
周りはみんな口を揃える。
「なんであの先輩なの?」
(君達には解るまいて)
素行はあまり良くないのは知ってる。だけど、すごく魅力的な人なんだ。笑顔も性格も、全部。
私は先輩の過去を何一つ知らない。先輩が何も言わないからだ。特に聞く必要も無いし、今後もきっとそのままなんだろう。
(それはちょっと)
(寂しいかもしれない)
…難しい顔で黙っていたらデコピンされた。
「なに考えてんの?」
「先輩のこと!」
「…腹減った、なー」
「顔赤いですよ」
「うっせ」
何も言わない先輩だけど、私を好きだと、やっと出来た繋がりなんだと、よく笑う。
なんだかなぁ。
「また何か考えてる…」
「お腹減ったー」
「へぇ」
「冷たい…」
態度とは裏腹に、ギュッと握られた手は熱くて。冷え性は嘘じゃないかと思った。ずっと傍に居たいと、思った。