いいよあんたがそう言うなら俺はガキでいるよいつまでも!


「八、」
「あー」
「ちょっと聞いて」
「あーあーあー」


がくりと頭を垂れた先輩のつむじ、目を逸らしてふんと鼻を鳴らした。
荒い息でまくしたてても、俺は絶対悪くない。
だってだってだってさー二週間実習ってなにそれ?しかも城の潜入調査とか普通心配するじゃん。
そんな報告聞いたら引き止めるしすがるしわめくよ、格好悪いとかそんなんどうでもいい、俺は叫ぶ。


「行っちゃダメー!」


そんな俺の渾身の雄叫びを、


「…子どもみたいだよ」


なんて返り打つからたまったもんじゃない。
子ども、子どもだと?その一言で俺の脳内は盛大に沸騰したのだった!


……そして今にいたる。
先輩は困り果てて唸っていた。俺の機嫌をどう取り戻そうか考えているに違いない。でも無駄だ、戻んねーもん。


「八、ごめん、でも実習だから仕方ないでしょ」


先輩は一体何に対して謝っているのだろう。
俺を子どもって言ったこと?
引き止めようがどうせ行ってしまうこと?
そりゃあ授業だから仕方ない、けれど。


「八ってばぁ」


申し訳なさそうに小さくなった声は、そうさせた俺が言うのもなんだけど可哀想だった。
辛抱ならん。


「…俺は!」


振り向くとびっくりした先輩が体を引く。その両肩をしっかり掴んで離さない。


「俺は心配なんですよ。あんたはそりゃあ優秀だけど、得体の知れない城に二週間って、……なにがあるかわからないし」
「…………」
「子どもでもなんでも好きに言ってろ、俺は、心配だ。名前が」


ついでに寂しい。

とは言えなかった。情けなさすぎる。
先輩は真剣に話を聞いていたけど、間近な顔がぱちりとひとつ瞬きをしたら、

え、え、


「なっなんで泣いて…!」
「え?あれ?」


あせって手の甲で必死に拭っている。涙。
本人も不思議そうで、俺は益々わからない。やべー駄々こねすぎた?泣かせるなんて最悪だ。

しばらくして、止まらないそれを諦めたのか先輩は首元に抱きついてきた。
俺も腕を回す。ぐすぐす聞こえた。背を撫でると一回しゃくりあげる。


「は、八」
「…おす」
「子どもって言ってごめん、心配してくれて、ありがとう…」
「…………」
「多分、嬉し泣きだから」
「名前」


頬を寄せる。熱が伝わる。耳元で囁く。


「寂しい」


ぎゅっとありったけ抱きしめると、唸った。
「すぐ戻るよ」って聞こえた。
あーいやだいやだ離れたくない、でも仕方ない。先輩の都合だ。俺は少しだけ大人になります。


「名前」
「なに」


見上げる目は赤くなってた。
そのままで一言。


「男はみんな狼だから注意するように」
「…今尻を撫でてる君が言えた台詞じゃないね、それ、…んぅ」


うるさい口を塞いで貪ってみた。
これは俺、悪くないから。先輩の体が柔らかくて気持ち良いのがいけない。
実習行くまで構ってもらおうとか、やっぱり子どもかもしんねー。