あそこ暗いし深いし嫌いなんですよ。
ぶちぶち愚痴を垂れながら後ろからついてきたのは一年くの一だった。
放課後、他学年が使用した実習道具の数々をしまう作業に呼び出され、緊急収集したというのに人手は自分と一年女子用具委員の名前のみ。
あとは全員逃げたか忘れているかどちらかだろう。そんな奴ばかりだ、うちの委員会は。
ため息もそこそこに、庭に散らばった道具を袋へ詰め込む。意外に量がある。中々骨が折れそうだ。
そうして集める作業中にも名前の口は動いていた。内容はあまり明るくない。
「せめて窓を増やすとか…工夫しないのかなぁ」
「用具庫が怖いのに用具委員なんておかしい話だぞ」
「うちの組の委員決めはくじ引きなんですー」
きっ、と睨みつけられると同時に袋詰め作業は終了した。
これから恐怖対象の場所へ向かう訳だが、はたしてその威勢がいつまでもつのだろうか。
袋は全部で四つ。
単純に二つの袋を掴み二、三歩進むと彼女はよろめいた。
その計算は間違っている。
「あぁ、貸せ。お前に二つは無理だ」
「そんなら初めから持たせないでくださいよう」
「何か言ったか」
「いいえ!」
にかっと歯を見せてむりやり取り繕った笑顔に呆れながらも用具庫に到着した。鍵を開けると篭った匂いがする。
少し振り向くと、名前は存分に嫌そうな顔をして闇を見つめている。
よく表情の変わる奴だなぁ、と今度は感心した。
「…入らないのか?」
「い、委員長が先に入ってください」
「なんでそんなに怖がるかねぇ」
「別に怖がってません!」
まだ陽は暮れていないのに、中は薄暗い。
袋はまとめて奥に置いておけば良い。後に小松田さんが数の点検(という名の荒らし)に来る予定だ。
どさりと投げ下ろして肩をほぐす。名前もそれに倣った。
もうやだ早く帰るー そう言った名前の上から不吉な音がにじりよる。
みしみしっ
「へ?」
上方の棚が揺らぐ。
「危ない!!」
どさどさどさ!
咄嗟に名前を引っ張り抱え込んだ。
ほんの一瞬の出来事。…辺りが静まり返った後、身体を起こした。作り付けの古い棚が運悪く崩れ落ちたのだった。
自分自身の動悸も止まない。
抱え込んだ名前もまだ状況が把握できていない。
「な、なに」
「大丈夫か」
「はい…、委員長は」
「軽い打撲だ」
「ご、ごめんなさ」
「軽いと言ってる。気にするな」
「……………」
「どうした、どこか痛…」
「怖かった」
俯く。
最早この倉庫に毒吐く気力すら無いようだった。
怯えているその頬に、安心させようと手を伸ばし触れると顔を上げた。委員長、ごめんなさい。それだけ呟いて小さい手は自分の上着をぎゅうぎゅうと握り締める。
薄闇の中真ん丸な黒目は恐怖に潤みを含んでいて、俺だけを一杯に映していて、吸い込まれそうだった。