気配を感じて目を覚ます。
体を起き上がらせると、壁に寄りかかった滝が居た。
「なに…」
「…………」
「いつからいたの?」
「…………」
だんまりでは何もわからない。空気が冷えていて、喉がかすれる。彼は寒くないのだろうか。
おいでよ、と手招きすると重そうに畳を這って近寄る。
無言。
ぎこちなく不自然に両腕が伸ばされてきて、それがまどろっこしくて掴んで引っ張ったら容易に胸元へ倒れ込んできた。
回された腕はしがみ付くようで、背中が痛い。
「なにかあったの」
「ない」
「そうは思えないんだけど」
「ないと言ったらない」
「…………」
不意に上がった顔は歳相応の表情をして見せた。
「理由がなければいけないのか」
小さく呟く。
別にかまわない。そう返すと、
「理由ならそうだな お前はいい匂いがするし温かいから、それが理由だろうな」
…珍しく素直なので笑ってしまいそうになるけど確実に気を損ねるので押し殺して留めて、少し下にある滝の頭に頬を寄せた。
「眠くないの」
「ない」
「そう」
「お前は」
「ちっとも」
誰かさんのせいで。
あぁ、もう空が明るんできた。
離れるのが惜しい。
「寂しいね」
率直に告げたら腕の力が強まる。
同感?
錯覚かもしれない。彼はもう寝ている様だった。