「見て見てこれー!」


大はしゃぎで自室へ転がり込んできた小平太を見て唖然とする。


「なにそれ…」
「狼だよ!」


開いた口が塞がらないとはこのことだ。ガオ!なんて言われても正直意味が解らない。眼を何度か瞬かせて彼の全身をくまなく観察してみた。
髪よりも少し濃い色の耳が頭から生えている。同じく濃いふわっふわの尻尾がケツから生えている。可愛いっちゃあ可愛い。が。


「(新手のプレイ?)」
「似合う?」
「うん、まぁ…犬だね」
「狼だってば!…名前、その様子だと今日が何の日か知らないな?」
「は?」
「そう、は!」
「は…」
「………ハロウィンだよ」
「あー」


くだらね。

心の内を四文字で声に出して伝えてから私は机に向き直った。課題の最中だったのだ。付き合ってられるか。


「冷たいな」
「煩いな」
「言っとくけどこれ仮装じゃ無いぞ、朝起きたらこうなってたんだ」
「は」
「ロウィン」
「そのネタはもういい!…今なんつった?朝起きたら?」
「生えてた」
「ごめん、どれだけ騙しても私お菓子持ってないから」
「いや悪戯でも冗談でもなくてさ」
「………嘘だあ」
「信じてないな。見る?」
「見ない!脱ぐな!」


袴に手をかけた小平太を慌てて制す。手が重なると、不意打ちでキスされて目から星が飛んだ。いつにも増して行動力が半端無いのはやはりその変身の所為なのか、それとも私が単に混乱しているだけなのか、判断付かない。


「なんかムラッとするー」
「随分都合のいい発情期だな!やめ、…ぎゃー!」


トリック・オア・トリート!
半信半疑だった私もこの後耳や尻尾が偽者でないことを嫌というほど思い知らされた訳で。本当にありえない。