「格好良い忍たま調査」


と、筆で上部にでかでか殴り書いてある紙を貰った。迫力に押され、声に出してみたものの非常に違和感がある。こういった調査はくの一教室間で暇潰しの種として定期的に行われるけど、色沙汰に傾倒している内容はあまり見ない。いつもは好きな食堂のメニューとかなのに。
元より興味がないうえ、誰がどうとか余り気にしない私は格好良い忍たまなどてんで見当がつかず、どうしたものかと廊下でたたらを踏んでいたら前方から迫る足音に気が付いた。


「あ」
「おう」


演習の後なのか土っぽい顔や体を現した食満。握り締めている紙になんだそれ、と関心を示したので、無言で内容を見せ付けると、はぁ、と素っ惚けた声。


「女子って好きだな、こういうの」
「あぁまぁ…男子ってどうなの?しないの?」
「話題にゃ出るけどこうはっきり格付けたりとかしない」
「ふーん」


紙を再び睨み付けながら思った。食満でも誰が可愛いとか話したりするんだなぁ。するか。普通の男子だし、食満だって。
頭を掻きながら食満が言う。


「どうせ匿名なんだし無難に仙蔵とか書いときゃいいんじゃねーの」


なるほど一理ある。確かに女子から絶大な支持を誇る立花くん。だが。


「いや、立花くんは格好良いというより美しいと形容したい」
「そうかよ」


目元とか。食満が他の男子を格好良いと思える基準てなんなんだ?モテ度?なんでか顎に手を当てて真剣に考え出している食満。伊作はダメだな全然格好良くねえとか結構ひどいこと言ってんだけどこのひと。
あ、そうだ。


「食満って書いていい?」
「へ?」
「だからここに食満って書いていいか聞いてんの」
「な、なんでだよ!」


なぜ焦っているのかは知らないが。そうか知らないんだね食満。潮江とかと喧嘩してなけりゃ、黙ってりゃ一端に男前だということを。


「いいよね」
「断定だよな言い方が」
「…また背伸びたね」
「そうか?わからん」
「やだなぁ私もしかして小さいのかな」


食満と並ぶと頭一つ違う。同級生の中では平均も平均なのに、うーん食満。顔赤いよ。食満ってさ、…うーん。


「なに見てんだ」
「格好良いじゃん食満」
「まだ食い下がるか」
「私の本心だし。通りすがりにありがとう。じゃ」
「俺だってなぁ、」


早速名前を書いてやろうと自室へ戻る私に食満の声はもう聞こえなかった。


(お前のこと一番可愛いと思ってんだよ)