上半身裸でいたら「風邪ひくよ」と指をさされて笑われた。日がな剣に付きっきりで自分の時間なんかありゃしないんだから、風呂上がりぐらい好きにさせてほしい。ずっと修行。ずっとずっと、明日も明後日も修行修行修行。終わりの全く見えない螺旋。


「…だるい」
「えっなに早速風邪?馬鹿じゃないの」
「お前だるい。どっか行け」
「うわぁ…」


首を傾けるとごきごき音がした。ひらひら手を振られて意識がそっちへ飛ぶ。


「お大事にねー」


名前は茶化して身を翻す。待て、行くな。自分から離しておいて引き止めるなんて矛盾しているが、構わず手首を掴んだら名前の目が丸くなった。俺も驚いた。すごい細かった。俺の手が大きくなったのか?それとも名前が細くなったのか。或いは両方かもしれない。


「なに?」
「お前…縮んだのかまさか」
「まさか!」


どん、と胸をど突かれた。全然痛くないのに胸の奥が何だか妙な感じだ。
近付くとよくわかる、縮んだのではなくて、俺がでかくなっていた事実。それでもまだ成長することはわかっている。骨が痛いから。

何か言いたかったのに思い出せない。


「…俺、強くなったよな」
「だいぶね。もう立派なお侍、に、」


言葉は途切れた。閉じ込めた腕の中でやっぱりさっきみたいに驚いた顔をしているのだろうか。

肩口に顔を沈める。いつの間にか小さい、柔らかい、いい匂い。

(どうして思い出せない)

剣を握る理由、俺がでかくなった理由、強くなろうとしている理由。
ぐちゃぐちゃにもつれた記憶の糸をゆっくり手操る。
もう少しだ。


(俺はお前に、)