何度謝り倒したか知れない。布団の中で身を丸くしてひたすら萎縮する私に立花くんの笑い声が届く。






くの一教室はかくれんぼの真っ最中だった。ただの遊び、ではなく最初の鬼は一人だけど見つかった子は鬼の仲間になる芋蔓方式で、最後まで見つからずに残った一人には特別におばちゃん特製スイーツが与えられる。くの一教室はそのご褒美にまんまと釣られて熱気にのぼせた。みんな女の子、甘いもの大好き。私ももれなくその内の一人だった。
開始後闇雲に天井裏を走り回っている内に忍たま長屋まで来てしまったらしかった。無人の部屋へ降りたち、しめしめと出しっぱなしの布団にくるまった私だったが、間もなく何者かに引っ剥がされ戦慄する。そこにいたのは、鬼ではなかった。むしろ鬼の方が良かったぐらいだ。


「た、立花くん…?」
「……何をしてるんだ、名前…」


二人とも暫く呆然としていた。立花くんは言う。

私に何か用なのか?

ここはまさか、そうまさかの立花くんの部屋だったのだ。必死過ぎて気付かなかったにしろ私は数刻前の自分を呪った。これなら庭の池にでも潜ってる方が随分マシじゃないか。だって、お、恐れ多い。
飛びかけた意識を無理矢理繋ぎとめて説明するとなんとか事情はわかってもらえた。黙って聞いていた立花くんは良しとしたのか私の上に布団を被せるとどこかへ行ってしまった。押し寄せる後悔の波と、布団のいい匂いがぐるぐると私の頭を溶かしていく。蒸し暑い暗闇の端を少し開けながら息を潜めて待っているとやがて白い足が見えた。立花くんだと判断するより早く隙間から鼻先へ乱暴に踏み込まれたので飛び起きた。


「おわぁあ!」
「何やってるんだ、おとなしくしてないと見つかるぞ」
「びっくりしたんだよ!って、ちょっと、なんで入って…」
「眠いからに決まってるだろう。そもそもこれは私の布団だ。眠い時に入って何が悪い」
「そっすね…」


もっともな正論に私は口を閉じた。まだ夕方なのに、などととやかく言える立場でもない。おやすみ、と言ったら同じ言葉を返された。
一つの布団の中にいるとはいえ頭を出している立花くんと頭まで入っている私の間にやらしいこととか全くなくて、奇妙な雰囲気でただただ時間を潰す。そして傍にある綺麗な立花くんの手を観察したり不規則な寝返りで露わになる背を見たり腹を見たりしながらやり過ごす内になんと私は爆睡してしまった。目を覚まし布団から這い出た朝方、立花くんはいなくなっていた。





結局授業のかくれんぼは私の失踪により裏山捜索まで発展していて、スイーツなんて与えられる筈もなく、かわりにお説教を頂いた。その帰りに廊下で含み笑いをしている立花くんと擦れ違った。おはよう、と言われたので同じ言葉で返した。