どこにいても必ず見つけてくれるから期待してしまうね。
そうかな?
そうだよ、僕がどこにいても、ねぇ。
うーん私別に意識してないんだけどね。
それって…。
それって?





春にしてはやけに蒸した風が吹く。気候は目まぐるしく、一日として続くことがないのに、私と数馬の習慣は変わらず在りつづけた。数馬がどうかは知らないが、意味のない一方的なかくれんぼだと私は思っている。
日がな数馬はぼぅっとしている。ふらふらしている。故に放課後ともなれば彼の行方を知るものはそう居やしなかった。困ったことに数馬には責任感というものが抜け落ちていて、ぼんやり、ふらふら、一月に委員会に出た回数など片手で充分足りてしまう。


ぶわりと生温い空気が頬を撫でて土煙に顔をしかめれば、霞んだ視界の奥に数馬を発見する。大木の下で何か読んでいた。わかりもしない難解な書物をただ眺めるのが好きなのだと言われたことがある。
何か声を出す前に、数馬が私を見た。風。数馬の髪を揺らして抜ける。柔らかな流線に葉が一枚乗っかった。


「名前」
「見つけた」
「用事?」
「まぁね」


葉っぱを取ってやると、とぼけた真ん丸な眼が少し形を変えて笑う。今日は風が強いね、とどうでもいいことを言う。数馬と私の会話なんて九割方どうでもいいことの連鎖で出来ていた。

数馬の隣に座ると、散乱している花々に気が付いた。花びら、ではなく花が花の形をしたまま点々と落ちていた。茎はなく頭から綺麗にもぎ取られていて明らかに不自然で、なにこれと尋ねる前に男にしては丸っこい指先が花をひとつさらった。数馬は私の台詞を取るのが上手い。


「拾ったの。綺麗なやつだけ」
「ずいぶん乙女だね」
「名前に見せたくて」
「へぇ」


数馬から私へ手渡された花。薄桃で掌に収まる大きさ、名は知らない。詳しくない。
なんとなく数馬のこめかみ上辺りに付けたら可愛かった。柔らかな髪に優しい色合いがよく合っていた。


「可愛い」
「そう」
「よく見つけられるね、こんな花見たことないや」
「そう?」


数馬の辿る軌跡など私には想像もつかない。不思議な子だと思う。善法寺先輩もよく言ってるけど。

……いけない、すっかり忘れてた。


「今日委員会なんだよ数馬」
「そりゃ大変だ」


言葉のわりにさして急ぐ風でもない数馬は、尻についた草を払いながら名前はすごい、と言った。


「どこにいても必ず見つけてくれるから」


期待してしまうね。
そう続いた言葉。すごいなんて言われるようなことじゃないけど、きっと私にしかわからない数馬のこと、教える気にはなれなくて。首を傾げてはぐらかそうとしたら数馬がまた、緩く笑った。