いつの間にか雨が降り出していたようで地面の色はしっとりと濃さを増していた。これは間もなく本降りになる。早く。早く帰ろう。
「つまらない…」
予定狂いが大嫌いなお前は暗い眼に私を映し、それは大層恨めしげだったがあいにく天候を操作出来る程人離れしていない。頬を打つ確かな雫は生々しくていやでも現実を見る。そうこうしてると傍らのお稲荷様が泣き始めた。人のない境内は物々しい雰囲気で背が薄ら寒い。
「帰るぞー」
「せっかくあいつら出し抜いたのに」
「また日を取ればいいじゃないか、祭なんていつでもやってるだろ」
「ふんだ」
あんまり遅いと連中、感づくぞ。私の言葉なんか知らぬ振りして後ろをだらだらとついてくる。段々飛ばしに下る積み重なった岩。憂鬱そうに苔を生やして踏まれるのを待っている。
「三郎ー」
「なーにー」
「また一緒に来れるかなぁ」
「どうだかね、お前は来れるんじゃないの」
「一緒に、って、言った」
「聞こえなかった」
木の陰を上手く縫うように歩いても雨は疎らに降りかかる。はぐらかしたらもう黙ったきりで二歩後ろにいるお前。不安なんだろなぁ、私が学園からいなくなる度嫌そうな顔をする。不安、なんだろなぁ。そうでしょう。
連中、連日からかう。お前ら最近仲良いけどさぁもしかして、なんて。もしかするんだよ。
言い訳なら滅法得意分野さ。
水を丸呑みした地面はぬかるみ始める。怖いだろ、滑るぞ。
「私も一緒だよ」
だから手を取りなさいよ、お前の気が済むまで走ってやるから、そら。