情に厚くてとても明朗な奴だった。もはや過去形、今うなだれているこいつは、竹谷は、私の知ってる竹谷じゃない。


「兵助が死んじゃうよ」


淡々とした羅列は他人事のようだった。事態は深刻で、今だ信じられない自分に必死に言い聞かせているのだ。竹谷は力なく首を横に振る。表情は見えない。いくら諭しても納得しない子どもみたいで苛々する。私もう行くね。今ならきっと間に合うから、三郎も雷蔵もとっくに行ってしまったのに、あんたはなんで動かないの?誰よりも先に飛び出すと思ってたのに案外腑抜けなのか。


「じゃあそこで待ってれば」
「…………」
「冷たいね。仲良かったのにね、あんたにとって友達なんてそんなもんなの」
「……行くな」
「私が瀕死になっても同じこと?」
「行くなよ」


馬鹿言え。竹谷に私の行動を制限する権限があるというの。そんなもん無いよ。ねぇ。無いんだよ、そうでしょう、最初から私と竹谷には、そんなしょうもないありふれたいさかいなんて。こんな場面で気付いた竹谷の想いの在りかは受け止める相手がいないから宙に浮いたままで時間ばっかりが過ぎる。これで兵助が急事になんてなったらこいつは立派な人殺しで、私はその人殺しに加担したことになるんだろうか。そんなのは御免だ。


「兵助死んだら私も死ぬよ」
「そんなこと言うな」
「言う。まだ好きだって伝えてな…」
「俺は!」


本当に一刻も惜しい。それなのにどうして竹谷にかかずらっているんだろう。怯えた眼が私を捉え映している。竹谷らしくない。否、最初から「あの」竹谷はいなかった。ここにはいないんだ。ここにいるのは違うんだ。だから私を困らせる。


「…俺は……」


大きな手が伸びてきて、捕まった。たたらを踏んだ私はあっさり竹谷に引き寄せられた。
遠くの爆音が鳴り止まないの。それがすごく不安だから私は震えている。報告を受けてから頭の中は真っ白で、まぁ普段も空っぽだから都合は良かったけどそういう問題じゃあないよね。兵助はよく出来る、出来るから難しいことを頼まれた、頼まれたけどやっぱりそれは難しかったんだ。また戦さ、と三郎は卑屈な顔で笑ったし雷蔵はなんにも言わなかった。ずっとずっと私は不安だった。竹谷は?あいつなら大丈夫だよ気にすんなって背中を叩いてくれた竹谷は?

ねぇもう行っていい?


「行くな」


私を逃すまいときつく抱く体も震えている。臆病だったの?どくどくと鼓動が聞こえる。竹谷のそれよりももっと早く私の心臓は慟哭する。なにを裏切ったわけでもない。それなのになにも考えられない。


「ばかやろ、竹谷、の、人でなし」


あんた一体誰が大事なの。

俺は、俺はとそれ止まりで先に続かない拙い声の端々はまるで泣き言のようだった。





(俺はあいつがそのままいなくなってしまえばいいと思う)
(俺はお前の心が全てあいつにあるのが我慢出来ない)
(俺はあいつが羨ましい)
(俺は――)